その日の夜。

ぬるめの湯をつかい昼間の汗をながした月は、フワフワとそよ風にも揺れるシフォンの夜着を身につけ、
心地よさそうにテラスのカウチで、憩いのひとときに寛いでいる。

絹布とおなじく風に揺れるヘイゼルの絹糸。花のシャボンを使ったのだろう、そこからただよう甘やかな蜜の香りが、
しとやかに竜崎を誘っている。

足音を立てず近づき隣に腰かける。驚きもせず振りかえると月は、小首を傾げて竜崎をうかがった。
まっすぐに見つめてくる透明な瞳と、サラリとひとふさ流れた髪に、どうしようもなく欲望を煽られる。
「今日はすまなかったな」
「なにがですか?月くんの代わりに当分、私が仮縫いの刑に処されそうな事ですか?」
「拗ねるなよ。どっちにしたって式に着る正装は必要だろ?
そうじゃなくて…僕の都合にあわせて、皆に迷惑をかける事になりそうだなって…」

「ああ。それは気にしなくていいです。それよりも早く体調を万全にする方を優先してください」
そうでなくては、思いきり抱くことも出来ないではないか。
カウチのうえに両足をあげ背中をまるめて座り、なにかの動物みたいにモノ欲しそうに自分を眺めては爪を噛んでいる男に、
月はフ、と微笑んだ。

視線をずらし夜空を見あげた。
「星が綺麗だね」
満天に散りばめられ輝く宝石たち。
「そうですね」
「こんなにたくさんの星を見るのは、生まれて初めてかな。
夜の国では、たいがい空を見あげても吹雪いているか、まっくらな夜空に月だけが昇っているかでさ。
星はあまり見えないんだ」

手を伸ばしてみる。指先が届きそうで届かない、遠くかなたで瞬く光。
「こんな夜空、粧裕が見たら大喜びしそうだよ。あのこなら『ひとつ位落ちてくればいいのに』って無茶を言いそうだな…
でもホントだね。
あんなに綺麗なら、一個くらい欲しくなる」
「───星にはかなわないですが」
カクッと頭をかたむけて間をあけてから、男はペタリペタリ月のそばを離れ、すぐまた戻ってきた。
「これを」
「───これって」
ビロードの小箱に包まれたちいさなリングは、星とおなじように煌くひとつぶの雫形の石を中央に抱いて、
曲線がひかえめな白銀のひかりを放っている。

「代々、太陽の王の后がつける正式な指輪は他にあるのですが…紋章が彫られたいかついモノで、サイズもちがえば
月くんにあまり似合うとも思えないんですよ。よって、普段はこちらをつけてください」

月の指にピタリとはまる、竜崎が月のためだけに用意したエンゲージリング。
不意に以前、船のなかでブルーダイヤと髪飾りをプレゼントされた事を思い出して月はクスリと笑った。
「なんですか?」
「いや…ごめん。竜崎は、本当に僕を飾りたてるのが好きなんだなと思ってさ」
「すみません…不快ですか?」
「いいやすごく嬉しいよ。ありがとう。大事にする」
「手を出して」
「ん」
男の手で填められたそれは、すぐにしっくりと月の指に馴染んだ。
「でも」
「でも?」
「今日、仮縫い中の貴方を見ていて思いました。
着飾った月くんもそれは綺麗ですが、月くんは例えなにも身につけていなくても、やっぱり美しいです」

「───馬鹿!」
一拍おいて、朱を刷いた貌に怒鳴られてカリカリ頭を掻いてみせた。
「………あ。すみません。そういう意味じゃなかったんですが」
「じゃあどういう意味だよ!」
「いえですから貴方はそのままが一番美しいと…まあいいです。もうそういう意味でいいです」
「なんだソレ!…ちょっ…待てって竜崎!」
とつぜん、襲い掛かってきた男にカウチに押し倒されて、焦った月がとりあえず抵抗を試みる。
胸をおしかえす細い両腕を捉えると、間近にある顔をのぞきこんで、囁いた。

「嫌なんですか?」
「…ここじゃ…嫌だ…」
「部屋のなかよりこちらの方が、風が吹いて涼しいですよ。月くんも暑くなくてラクなのではないですか?」
「だって…警備の目があるだろう…知ってるぞ!この宮殿、長閑なようでいてアチコチに監視が仕掛けられてるって!
どこにいても誰かの眼が必ずあるって!」

「そりゃそうですよ。安全確保のためです。しかし彼らもプロですから。べつに気にしなくていいと思いますが」
「僕は気になるんだ!集中できないだろ!…ああっ…っあ、んっ」
問題ない、とばかりに竜崎は月をその気にさせるべく、手を蠢かした。
どうせ今までの情交もそれなりには見られている。今はそんなことよりも、星空とそよぐ風と、緑と花々の噎せるほどの
香りのなかで、月を愛し堪能したい。

薄いシフォンは、触れればすぐその下の熱を感じることが出来た。寝着のうえから下肢を弄ると月がギュッと瞼をつむった。
観念したらしい。

ほくそ笑み衣ごしに優しく扱いてやると、ビクリと若枝みたいに背が撓る。カウチに縋るように立てられた月の指先が、
細かく震えている。

「ふっ…ん、んっ…んんっ…んっく」
「声を出しても平気ですよ」
「僕はっ…へいきじゃ…あっああっ…あっんん」
夜の国ではオープンなセックスどころか、まともに自慰の経験すらなかった月である。竜崎と関係をもってからずいぶん
慣らされもしたが、とても開放的な気分になるまでには至っていない。

胸の突起を捏ね、口に含む。片手での月自身への愛撫も忘れない。あくまで衣のうえから施されるそれに、もどかしげに
痩身が身悶えた。意識とは切りはなされた若い肉体が、貪欲に快感をもとめはじめる様子を愉しみつつ、焦らすみたいに
滑らかな太腿を撫であげる。

「あ…あっ…あっ…りゅ、竜、崎」
「なんですか月くん」
「ばか…意地悪…するなっ…っ」
そこで本気で怒った目で、睨みつけてくる月が心底かわいい。
プライドが高く、屈辱にはバネのごとくに抗ってくる気の強さと負けず嫌い。それをこそ手折ることに、昏い悦びを覚える
のが男という生物なのだと、いまだ気づけずにいる未熟な幼さ。

舌なめずりして男はわらう。
眦を赤く染めて、欲情に潤んだ瞳で睨んだところで、雄を煽るだけなんですよ月くん。
「ひあっ…あ、…ああっ…あっふ…うっ…っ」
「きもちいいですか?」
「んっんあっ…あっあ、ああっ」
「そんなに大声で啼くと、さすがに監視の者たちも気まずいかもしれませんね」
「! やっ…や、だ…やだっ…や、ん、んっ…」
意地の悪い竜崎のセリフに、眉を顰め涙目になった月が、自分の手の甲を唇に押しあたる。
それを強引に外させ口づけると、自ら舌をからめ月の両腕が竜崎の背にまわった。

セックスの最中の竜崎はいつでもあまり優しくない。それでも月は拒まず、男との行為を受けいれる。
衣の下に手を忍ばせ直接、触れてやる。待ちのぞんだ刺激に、弓なりに柳腰が跳ねあがる。頭をもたげ先走りを洩らしている
若茎の根元をいましめて、いきなり先端を抉ると月の晒されたましろい脚が、ビクビク痙攣した。

「…くっ…っ…っん…ふ」
唇を重ねたまま、長い睫に乗っていた滴がホロリと流れていく。乱れた前髪からのぞく、形よい額とこめかみの婀娜っぽさ。
もっともっとと、全身で求める匂いたつような月の色香に、酒には強いはずの竜崎はクラリと酩酊した。
これ以上は自分が限界かもしれない。
茎から手を離しその奥にひそんでいる蕾に指を這わせた。
「!」
ビクッと窄まる秘部の、花びらを一枚いちまい掻きわけるようにして入口を揉みほぐす。そうして緩んだところを見計らい
乱暴に二本、指を突き立てれば、打ち揚げされた魚みたいに月は大きく波うった。

「───っ…っふ…はっ」
必死で貪られる口づけから逃れ、呼吸をもとめて上下する咽喉から、苦しそうにあがった喘ぎを耳にして、
きゅうに、竜崎は冷静になった。
ガクガクと震えは華奢な身体全体にまで伝わっている。解放できない愉悦は、過ぎれば酷い苦痛にもなる。
月に、あまり無理をさせてはいけなかったのだ。

寝着は脱がせないままドレープを腰まで捲くりあげ、しとどに濡れそぼった月自身を口内に含んだ。
「あっう」
同時に、縛めていた手をはなし潜りこませた指先で、弱い部分を的確に狙い内襞を擦りあげる。
「あ、ん、んあ───っ…っ!」
反りかえり、みじかく高い嬌声をあげ、月は白濁を放った。
掌で受けとめてから、ヒュウヒュウと噎せるほど乱れた月の吐息に、竜崎は口角を歪めると。
上体を起こし、目を瞑ったままの頬にキスをして、言った。
「すみませんでした。身体は大丈夫ですか」
「…あんまり…大丈夫じゃないよ…少しは手加減して欲しいかな…」
「つい夢中になってしまいました。これ以上は無理そうなら止めますが」
交わっているあいだは容赦ないくせに、肌を分けたとたん、過保護のあまり要らぬ気遣いまでしだす馬鹿な男。
月は胸のうちで苦笑する。
「いいよ。…僕も欲しいから」
監視に見られているかもしれない羞恥は、一回達したことで消えた。開き直ったともいえる。
ダルい腕を持ちあげなんとか身体を起こし、何をする気かと訝しげな眼をした男に嫣然と笑いかけると、月はそのまま身を
屈めて、動けない竜崎の下肢に顔をよせ、

黒衣のうえから怒張を咥えた。
「ラ───月くん!」
飛びあがるほどギョッとした男に、ザマアミロと気分が晴れる。
防戦一方は月の好むところではない。攻められる前に攻めこむ事。それこそ、相手を打ち負かす最大の戦法。

「意地悪されたから、お返しだ」
片目を眇めわらって、テキパキと黒衣をずらし現れたソレに躊躇いもなく奉仕する。とことん負けず嫌いである上に、
ある意味無知なこどもほどタチの悪いものはない。

「う」
息を詰める。
竜崎の荒れた爪先が月のヘイゼルの髪を撫で、鷲掴んだ。
押しつけられるみたいにされて、月はハタと戸惑う。経験がある訳ではないので、実際どうすれば上手く出来るかなんて
分からない。

ただ、竜崎が感じてくれますようにと願いながら大きく口をあけて、熱く硬いソレを一所懸命に頬張るだけ。
「月」
呻くみたいな竜崎の声。普段の淡々とした声音ではない、切羽詰った、感情が剥きだしの、耳にするだけで切なくなる
その声。
良かった。ちゃんと出来てる。ちゃんと感じさせてあげられている。
が。
「っ…ぐ…げほっ」
「…月くん…」
「ごっごめっ…げほっごほっ」
生臭く苦味のつよい先走りを舌におぼえた瞬間。我慢できずにさっさと、月はソレを吐きだしてしまった。
顔を顰めて嘔吐感を堪えながら謝る月に苦笑して、竜崎は薄い背中を抱きよせ擦ってやった。
「無茶しないでください。ビックリしました」
「ビックリ…させたかったんだ…」
「月くんの方がビックリしたみたいですけどね」
「…不味い」
「そうですか?月くんのは甘くて美味しいですよ?」
「………っっ」
「しかし…貴方も変わりましたよねえ…」
しみじみ呟かれて、月はいまさらながら自分が仕出かしたことに赤面した。
竜崎と出会うまえは、キスすらもよく分かっていなかった。その月が勢いとはいえ積極的に口淫にまで及ぼうとしたので
ある。いかな竜崎といえども驚愕し、感慨ぶかい想いにかられるのは当然だ。

「私のために、ありがとうございます。感激です」
「う、うるさいっ…別にオマエのためじゃ…」
「これから時間をかけてゆっくり、勉強していきましょうね。焦らなくても私たちはずっと一緒ですから。
それより今はこちらで…いいですか?」
「っ………ん」
それ以上からかうでもなく徐にうしろを探られ、赤くなりっぱなしの月は力を抜いた。膝のうえに抱えられて、向かい合わせ
に抱き締められて、悔しいけれどまだまだ竜崎には敵わないなとつくづく思う。

月に自由の世界を教え、愛することの意味を教え、愛しあう行為そのものを教えた男。
「息をはいて」
「───っ!」
支えられ、ゆっくりと腰を落とした。自分の重みで熱塊が、肉をかきわけ杭を穿つみたいに入ってくるのをリアルに感じる。
蹂躙される息苦しさと、満たされる充足感と。

ちいさく慣らしで揺すられ、ヒッと細い声がもれた。
「どうですか?」
「も…平気だ…」
月の返事を確認して、男がグラインドを開始する。次第に激しくなる動きにあわせ腰をくねらせ、突きあげられる度に
のけぞり、落ちたところを深々と貫かれる。

熟して過敏になった内襞を抉られると、堪え切れずあられもない声が夜のしじまに響きわたった。
「あ…っひ、ひあ、ああっあああっ…ん、んっ…あ、あうっ」
反りかえってうしろに倒れそうになる月を、竜崎の両腕が拘束した。胸のなかに閉じこめられて、月は与えられる竜崎の
愛撫に酔いしれる。海賊船のうえで愛しあった時とはもうずいぶん状況が変わってしまったけれど、たぶんこの腕だけは
変わらない。月に自由を授け、そして月を捕らえ続ける男の腕。

朦朧とした意識のなか、鮮やかに微笑んだ。
変わっていくモノもあるし、変わらないモノもあるんだ。そのすべてをこれからも竜崎、オマエと一緒に分かちあいたい。
せりあがる狂おしい悦楽に全身が硬直した。
壊れるほどキツク抱きすくめられ最奥に男の熱をかんじながら、高みに駆けのぼった。

「! ………っっ…っ…」
痺れ、まっしろになり、弾けた余韻におぼれ、フワリと解放されるみたいに意識が遠のくなか、
愛しています。
優しい声とともに霞む視界に、流れ星が指にとまる。
幸福に包まれて穏やかな眠りにおちた。
夜空の明かりをうけて、
月の左薬指に填められたリングが、キラキラと煌いていた。


街中に紛れこんだ黒い影を、もうひとつの影がヒタヒタと追っている。
つかず離れず尾行していた影に、物陰から現れたべつの影が重なり、
ドサリと重い音をたて、屍がひとつ、ころがった。


「暗殺者?」
「ああ」
物騒な単語にも竜崎の様子にまったく変化はみられない。
カクッと、あやつり人形みたいに爪を噛みながら首を傾げただけである。

式の準備も大詰めに差しかかったある日。兄の流河に呼びだされ、いつぞやの中庭の一角でふたりは再び
顔を突きあわせていた。

「調べさせていた私の手の者が、昨夜殺された。相手はそれなりの手練れだと考えていた方がいい。油断はするな」
「初めてきく話ですね。一体いつからそんな情報を?」
「おまえが色惚けしている間に、私をLとした組織はもう機能していたということさ。
港に不審な人物が入ったと船から報せを受けてね。諜報を走らせていたのだが」

竜崎が引き連れ、兄に継いだ海賊船はいま、帰属国印を誤魔化して堂々陽の国の港に停泊している。
乗組員はみな修羅場をくぐりぬけた海千山千の者たちばかりだ。人波に紛れようとしていた黒い影を、目敏く見逃さなかった
のだろう。

「まあ…暗殺者なんて、そんなに珍しいものじゃありませんけど」
大して面白くもないように竜崎は呟いた。事の重要度を認識していないのではない。本当に、珍しくもないのである。
それこそLであった時は、四六時中命をつけ狙われていた。四方八方周りの海がすべて、敵で埋まっているようなものだった。
ならず者たちはみなLの力を怖れ、正面切ってはそうそうに手出ししてこない。かわりに暗殺という手段をつかい
Lを亡き者にしようとする。

それらをすべてかわし、くぐりぬけ、いま竜崎は生きているのである。向けられた殺意の刃を切りかえす事など、造作もない。
「まあ聞け。奴らはおそらく、東方の国々がさしむけた者たちだろう」
「はい。侵略目的ですか」
「新国王の戴冠と挙式の儀は諸国に知れ渡っているからな。この機会に首尾よく太陽の王を始末できれば、その隙をついて
陽の国に兵力を侵攻させられるとでも企んでいるんだろうな。

もし失敗しても国王の暗殺騒ぎがもちあがれば、自分たちの軍事力強化に、陽の国をうまく巻きこむきっかけくらいにはなる」
「馬鹿ですね」
「相手としてはリスクが少なく、打ってみる価値のある博打ということだ。私の言いたい事は分かるな?」
「わかりました。つまらない者たちに足を引っ張られないよう、くれぐれも気をつけます」
「私はおまえの心配などしていない。ライトが気がかりなんだ」
真剣な声に、竜崎は深淵の瞳をあげて兄を凝視した。
長い前髪のむこうから、男の慧眼が弟を見かえしていた。

「いまさら私が、おまえ自身の安全を気にしたところでどうなる。だが今のおまえにはライトがいる。
絶対に喪えないものを抱えて、おまえは戦ったことがあるか。自分の命よりも大切な人間を守りながら、自分の命も守れるか」
それは恐怖だ。
己の身ひとつならば惜しくもない。恐怖を知らず戦うものは、無敵である。しかしひとは喪えない存在を手にいれたとき、
はじめて真の恐怖を知る。臆病になるあまりに弱くなる。

黙りこんだ竜崎を束の間、静観すると、
兄は、すまなかった、と笑った。
「自覚があるならいいさ。ライトも、おまえも、この国も。すべて守れ。それがおまえに課せられた使命だ」
あまりに重く大きくつらい、太陽の王の責務。生半可な想いでは担えない。
勝てないな、と竜崎はあらためて思い知った。
目の前の男に、自分はまだどうしても及ばない部分がある。
けれど月を守りたいきもちは本物なのだ。誰にも譲れない。その為だというのであれば、自分の命も、陽の国も、
守りきってみせる。

「貴重な情報をありがとうございました。こちらの心配はいりません。私も伊達に、Lを務めてきた訳ではありません」
「なに、おまえたちのフォローをするのも、いまの私の仕事だ。
約束どおり挙式まではこの国に居てやるぞ。大船に乗った気でいろ」

「いますぐ出港して頂いてけっこうですよ」
相変わらず飄々と恩を押し売りしてくる兄に、内心苦笑しつつ竜崎も淡々とやり返す。
無表情にみせた貌のなか、嵐の予感に、男の真黒な両眼だけが炯々とひかっていた。


太陽の王の正装とは、警備兵用の黒衣とよく似た内装着のうえから、やはり黒を基調とした光沢のある布に
さらに極彩色の模様を織りこんだ、ズシリと肩に重く、引きずるほどに長いマントを羽織るものである。

豊かな大国を率いる象徴として、男子であろうとも色とりどりの宝石類を身に纏う。耳にはルビーを、首からはエメラルドと
サファイヤを。

銀製にパールとダイヤで飾られた王冠を頭に載せられ、重たくて頚が折れそうですと竜崎はボヤいた。指に無理矢理いくつも
リングを填められて、悪趣味ですと情けない声で訴える。

女官たちはまるで聞き流して相手にもしない。キビキビと自分たちの仕事を進めていく。
けれどマントの下。式のあいだも腰に携帯する長剣は、飾りものなどではけしてなかった。さかのぼれば海賊であったという
建国の王。その子孫たちにも、つねに戦場に身をおくいきものの血が、脈々とながれているのである。

「あらら。けっこう、馬子にも衣装ね竜崎さん」
「ミサ!」
声がして振りかえった。
開いていた扉の向こう側から、ヒョッコリ、月とミサが顔を覗かせている。
「月くん。いらしてたんですか」
「う、ん。竜崎がどんな恰好するのかなあって、興味あってさ」
「朝から気になって仕方がなかったのよねーライト。ソワソワソワソワしちゃってるから、ミサが付いてきてあげたの」
「ミサ!ち、違う!暇だったからちょっと見に来ただけだ!」
狼狽えたみたいに一所懸命、言い訳する月に嬉しそうな顔をして、竜崎は両手の指先でマントを抓んでみせた。
「ヘンでしょう」
「え?…別にそんな事ないんじゃないかな…」
「ヘンですよ。私、こんなヘンな格好で月くんの隣に立ちたくないです」
「ヘンじゃないってば!よく似合ってるよ!」
「そうですか?似合ってますか?」
「う…うん…カッコイイ…と、思う」
「そうですか。恰好いいですか」
「…ん」
「あーもー…勝手にやってて…」
思いがけない竜崎の姿にときめいたのか、月は素直に頬をそめて、男はそんな月の様子にワキワキと大喜びである。
周囲にかまわず甘ったるい雰囲気になってしまったふたりにミサは大いに呆れ、結局。準備の邪魔になるからと今度は月たちの
方が、女官に部屋を追いだされた。