面倒に巻き込まれる前に上手く退散した竜崎と月は、当初の予定どおり街なかの宿場にたどりつく。
捨ておいたアジトと男たちの遺体は、ワタリがよきに計らってくれるだろう。竜崎にとっては月を確保した時点で
どうでもいい事になっている。

だいぶん遅い時間になってしまったが、ケープでこびりついた血を隠しつつあらわれた美人と連れの猫背男にたいし、
宿場の女将は愛想よく歓迎してくれた。
一階が酒場になっているその宿は、多少うるさいものの部屋のランクも安全性も街では上位にはいっている。

「明日の朝に着替えをもって来させますので、そのドレスは処分しましょう」
汚れた衣を脱ぎすて湯で身体を清めたあと、月はハタと途方にくれた。
「竜崎…なにか着るものってないのか?」
「今晩はもう必要ないでしょう?」
どうしてこの男は…と眉間にしわがよるのを押さえられないまま、月は水気を拭ったうすい布を身体にまきつける。
浴室から部屋にもどった月を竜崎は待ちかまえていて、つよく抱き締めた。しょうがないなとは思いながらも、
拒む気は最初からない。
関係をもったその日から竜崎は月の体調が許すかぎり、飽くことなく行為をくりかえす。まるでそれまでじっと我慢
してきた時間を、取り返すかのようなそれに。あっという間に月は慣らされ、あたりまえのように受け入れさせられる。

頬をつつまれ口付けられて、弄る舌の動きがはげしい、とおもった。
性急に全身に手がはいまわる。無意識に掴んでいた、身体をおおう布を乱暴にはぎとられて月は僅かにすくみあがった。

「竜崎?」
返事はなくベッドに押し倒される。力を抜いて目を閉じた月は、チリチリと肌を焦がすような感覚にふたたび瞳を
見開いた。

息をのんだ。
はじめて見る眼をした男が、そこにいた。
いつも虹彩のない、表情の読みづらい眼球だったが、いまはハッキリと痛々しい色が浮かんでいた。けれど痛みを
感じているのは月ではない。傷つけられたのは男の方だ。

後悔。憤り。焦燥。不安。そして安堵。
さまざまな感情がごちゃまぜになった眼は、ちいさな子供が泣きそうに母親にすがりつくソレにも似ていて、
大切な宝物をとりあげないでと泣くソレにも似ていて。

長い蜘蛛の足みたいな指が、ベッドに横たえられた月の白い肌のうえをすみずみまで撫でまわす。性的な意味合いよりは
医者が患者を触診するみたいな、必死で懸命なしぐさと視線。

月は、今回の件で竜崎がどれだけ心を傷めたのかを思い知った。
おなじように泣きたい気持ちになった。
「…大丈夫だよ」
男のボサボサの髪を慰めるように優しく梳く。指のうごきがとまる。
「なにもされてないよ?」
「…はい」
「僕はぜんぜん、ひとかけらも傷つけられてないからね」
「…はい」
胸に顔をうずめた男の頭をそっとかかえる。泣きたいほどにいとおしいと思う。
こんな感情を知ったのは、竜崎と出会ってから。竜崎と一緒にいるからこそ。

「オマエが守ってくれるから、僕は平気なんだよ。竜崎と一緒になってから僕はつよくなった。いろんなことを知った。
勉強した。たくさん怒って、たくさん笑うようになった」

「はい」
「ずっとそばにいろよ?」
「はい」
何度もなんどもキスをかわす。苦しいような竜崎のささやきが耳朶をくすぐる。
「月くんになにかあったら、どうしようかと思いました」
「うん」
「自分自身が許せないとおもった」
「うん」
「死ぬかと、おもいました」
「うん」
己を恨んで。世界を呪って。
「ずっと、私のそばにいてください」
「はい」
「…してもいいですか?」
「いいよ。しよう」
なめらかな首筋に噛みつくと満ち足りたようにクスクス笑いながら、顎をよせた。肌理こまやかな肌に所有の痕を
ちらしながら、たどりついた胸の飾りに舌を這わせると細く、息を吐く。
大好物の飴玉みたいに口のなかで執拗にころがす。月の両手が、もどかしげに竜崎の髪を握った。

「…うっ…ん、んっ」
「きもちいい?」
「あんまり…そこばっかり弄らないでくれ…明日痛くなるからさ」
「…かわいいことを言わないでください」
「ちょっ…っあ…」
煽られたお返しに歯をたてる。ビクッと月の背が跳ねた。口で胸をいたぶりながら手で下肢をまさぐる。
淡い茂みのなかで、月の若茎はやんわりと立ち上がりはじめている。

「素直に反応するようになりましたよね」
「っ…ふっ…う、るさいっ」
「感度がいいのは最初からですけど」
「りゅうざきっ」
キュッと手のなかのモノを扱くと、堪えきれないように甘い声がこぼれる。
夜の国のちいさな城のなかで大切に育てられ、王室の子として厳しく躾けられた月は、性に対してもまったくの
無垢だった。その月に悦びを教えこんだのもまた、竜崎である。

「んっ…ん、ん」
「声を殺さなくていいです。どうせ下が煩くて外には聞こえないですよ」
「でもっ…んあっ」
ねっとりと自身を温かい口内に包まれてビクビク腰がふるえる。下腹部から熱と電流としびれが走りぬけ、
火花が散り、脳髄をやく。しゃぶられ吸われるたびに足の指がつっぱり、爪先がシーツの波を蹴った。

「あっあ、あ」
内腿に断続的におこる痙攣。月の限界をかんじとった竜崎は先走りの蜜を指ですくうと、後口に塗りこめながら
ほぐしにかかる。

先端のくぼみを舌先で抉りながら、ひとさし指となか指を二本、そろえて突き刺した。
「!っあ………ぁっ…」
大きくのけぞり背中を撓らせながら月が達する。内部に埋め込まれた指に押しだされるように、白濁がながれる。
掌に吐き出すともういちど指に絡め、執拗なまでになかの襞にぬりたくった。

あつい内壁を擦るたびに目の前の柳腰がうねり、か細いすすり泣きが洩れる。
「ぅんっ…んっ…ふ」
「よかった…やはりなにもなかったんですね」
「………え」
「正直、抱くまで心配だったんです…もしかしたら月くんが傷を隠しているんじゃないかと」
「…馬鹿かオマエ…信用しろよ」
「すみません」
せっかく抱きあっている最中、何を言い出すのだと呆れた。とんでもない竜崎のことばに月が涙目で抗議すると、
覆いかぶさってきた男は濡れた唇にまた、キスをおくった。

「貴方が無事で本当によかった」
「ん」
「うしろを向いて。腰をあげてください」
「…はい」
あまりにも素直に言われたとおり、竜崎の望む体勢をとるのは月が竜崎以外をなにも知らないからだ。
そういうものだと、教えられたから。

独占する歓びに昏く口角を歪めると、差しだされた双丘にも濃い鬱血の痕をのこし、谷間に唾液を送り込む。
「うっ…あ、んあっ」
「蕩けてますよ月くん。もう挿れていいですね」
「は…っ…竜、崎…」
「いっしょにいきましょう」
「…っ…っひ…───あああっ」
両手で鷲づかみ拡げたあいだに先端をあてがい、傾斜をつけ上から体重をかけてズルズルと貫いた。熱塊を受けいれる
汗の浮いた腰が波うち、頸がふられるたびにパサパサと乱れる髪がなまめかしい。

シーツにすがった月の指先が、庇護欲と同時に嗜虐心をも煽ってくる。
根元までおさめていったん動きをとめたあと、月がなじむのを待ってから揺すりあげる。とたんに感極まった啼き声が
あがる。普段のなにもかもがスッキリととのった月からはとても想像のつかない、みだれた甘い高いあえぎ。
それも竜崎が仕込んだ竜崎の好む、だれも知らない月の媚態。

「ああっあ、…あっあんっ…んんっ」
卑猥な水音と肉を打つおと、掠れた嬌声だけが宿場の部屋にみちる。
とおく街や酒場の喧騒はもう、ふたりの耳には届かない。自分が啼かせる月のこえは、なんて耳に心地良いのだろうと
竜崎は熱い締めつけに酔いながら考えた。

綺麗なえがおも。誇り高い精神も。このうつくしいひとは自分だけのものだ。他人になど指一本さわらせるものか。
竜崎の腕のなかだけで咲く大輪の華。たまらない。

「いっ…や、…やだ…もっ…だめ…っ」
「もうすこしだけ。我慢して」
「ひあっ…あああ…いやっ…や、やっや」
ポタポタ滴りをこぼす根元をいましめると、ガクガクと荒く上下にゆさぶった。逃げるように泳ぐからだを背中から
拘束して、グラインドにあわせ好き勝手メチャクチャにうごかす。
何度もなんども月の咽喉から悲鳴があがった。膝がくずれベッドにふせる肢体を、足だけつかんで持ち上げる。

「りゅう、ざきっ…やめっ…たすけて…っ」
「すみません月くん。いっしょにいきたいです」
とけあった箇所からかんじる熱にあたまが冒されるようだと思う。
どれだけ叫んでいても月のなかはトロトロに溶けて竜崎をつつみこみ、はなさない。いとしいいとしいと全身で訴える。

挿れたモノと内部の襞を幾度となくすりあわせ、弱い部分を先端で捻り角度を変え貫いた。脇にかかえた足がもがく
ように跳ね、きつく痙攣する。
月はもう声も出せずに力なくシーツに顔をうずめて荒い息づかいをくりかえしている。

竜崎は息を詰めると、いましめていた手をはなし、一気にひきぬいた自身を、
勢いにまかせ最奥まで突き込んだ。
「…!ぁっっ───っ………」
振り絞るように。全身を硬直させて、細かくふるえながら月は射精した。
同時に体内ではじけた竜崎の体液。衝撃にまっしろになった視界。バラバラになったような感覚。そのあとで。

ゆっくり体内から引き抜かれる熱。
それから耳元で「あいしてます」と呟く男のこえが聞こえたような気がしたけれどもうよくわからない。

引いては寄せる波のような快感につつまれ、月は溺れるように意識を手放した。



「あんまり意地悪するなよ…」
「昨日はいろいろありましたから、すっかり興奮してしまいました」
あけて翌朝。宿場の部屋の窓からさしこむ、燦々とあかるい日ざしのなかで目をさました月は。
朝の挨拶をすませたあと開口一番、とうぜん、昨晩の行為について竜崎に文句を言ったのだが、

男はまったく悪びれないばかりか「まあ月くんはまだ経験が浅いですからねえ」などとしたり顔で言われてしまい、
そう言われるとそういうモノなんだろうか…と変なところで育ちの良い子猫は、今回もすなおに竜崎に丸め込まれ
てしまう。

剣の腕はたってもまだまだ子供ですねと、竜崎がこころの中で愛でていることも、月はしらない。
朝食をすませ、いつの間にか部屋に用意されていた新しいドレスに呆気にとられつつ着替えると。とっくに身支度を
終了していた竜崎と手をつなぎながら、ゆっくり、港にむかって歩いていく。

ちなみに昨夜の行為がたたって月の体調はあまり芳しくない。ゆっくり歩いているのはそのためでもある。
あたたかい太陽の光に照らされた街中は、雰囲気が昨夜とうって変わって、健康的な港街の活気に色づいているのに
驚いた。朝と夜の貌がまったくちがう国。これも、月がしらなかった世界のひとつだ。

偶然。通りの向こう側に昨夜の老店主と小猿の無事な姿をみつけて、月はうすく微笑む。
声をかけようとは思わない。もう顔を見せてあんな騒ぎは二度とごめんだし、これっきり会わないだろう人たち。
けれど月の知らないこの街で、彼らは逞しく生きている。
瞳に映るものみんな、新しい発見。まぶしい輝きを放つ毎日。

「また航海がはじまるな」
「そうですね。まだまだ先は長いですよ」
つないだ掌があたたかくて、嬉しくて、しあわせだ。この手は月を縛ると同時に、守り、愛し、欲しい物を与えて
くれる。
月が真実のぞむもの。それはいずれ本当に月を自由にしてくれる、竜崎の手。

「竜崎といると面白いよ」
楽しそうに月が言うと、マジマジと顔を凝視したあとで「私はたまに月くんに殺されそうになります…」言った竜崎に、
思いきり笑った。

海のうえには出港準備が着々とすすむ海賊船が、主たちの帰りをまっている。
船は陽の国にむかってひた走る。