「…っ…ふ」
全身がだるくて、指一本うごかせそうにない。
目を閉じて、睡魔に誘われるまま月の意識はユラユラ遠のく。
「ん…」
キスをされた。竜崎だ。それから頭の片隅で、やけに苦くてヘンな味だなと考える。
まさかそれが自分の体液まじりのキスだなんて、気づく余地はまったくなかったので。
眠くてねむくてどうでもよかった。

花の香りがした。月の好きな、あのオイルだ。竜崎の入浴のためにワタリさんに用意してもらった。
ああそうか。さっき竜崎が風呂にはいったから、それで。

フワフワ。あまい香りに包まれて、きもちよくて。なのに。
「───っ」
とつぜん感じた違和感と、冷たさと怖気に、跳ねおきた。
正確には跳ねおきようとして出来なかった。
「な」
「ああ、目が覚めましたか」
意識を飛ばしかけていた月の両足をかるがる肩にかつぎ、竜崎は小瓶からオイルをたらし、月のしろい双丘の
狭間に塗りこめている。

「ご気分は?」
「なに…してるんだ?」
「準備ですよ。きちんと施さないと、とてもキツイでしょうから」
わらいながら男が何を喋っているのかまったく理解できない。なにをしているかもよくわからない。
困惑しきった表情の月に、殊更やさしい声をつくると竜崎は、
「月くんは知らなくても良いことですよ。いまから私が教えてさしあげますから、力をぬいて横になっていて
ください」

「ん」
「すこし痛いかもしれませんが、耐えられますよね」
「はい」
騙しているわけではなかった。いずれ二人でおこなう行為なのだから、口でくどく説明するより実地で
レクチャーした方がてっとり早い。

身勝手に考えると大人しくなった月を確認して、竜崎は作業を再開する。後口の周囲をオイルで揉みほぐし、
解けてきたころあいを見計らって指をさしいれる。

月がするどく息を詰めるのがわかったが無視をした。まだ痛みはさほど感じていないだろう。たとえ懇願されても
いまさら止めるつもりもない。竜崎自身も、乱れる月の痴態にそろそろ限界をむかえていて、はやく挿入を果たし
たかった。

男の昏い目がギラギラとひかっている。
貫き、思うさま擦りあげ、ぶちまけたい。
まだひとつの穢れもない月のなかを、自分の汚濁でよごし、泣き叫ぶうつくしいひとの姿がみたい。
野蛮な欲望。
月を犯したい。
「…くっ…う…」
洩れ聞こえた苦しげな声に、我にかえる。
嗜虐の欲望はたしかにあるものの本当に傷つけるつもりはない。すこしでも苦痛をまぎらわす為ふたたび若茎に
手を添えながら、竜崎は月の顔をうかがいみた。

目があった。
呼吸が止まった。
透明な、あまりにも綺麗な瞳。
「ぼくのなか、に、竜崎がはいるんだ」
綺麗な笑み。
「そのために準備、してるん、だろ?」
刺激されるたびに途切れる、綺麗な声。
言葉にできず、あわせた目で問いかえす。
嫌ですか?
いいや。うれしいよ。
だってひとつになるんだろ?セックスって、そういう事なんだな。
指の数を増やして内壁を慣らすうごきに、月は仰けぞりかえり短く喘ぐ。弱い部分をさがしだして爪先で抉ると、
細くながい嬌声があがった。若茎が自らあたまをもたげる。

「っ…は…っあ、ひあっ…っっ」
僕の身体なんか興奮するモノじゃないだろ。そんなところ、見て楽しいものじゃないとおもう。
それはない。それは即座に否定する。現に自分は、月の充血した箇所に目をうばわれ自身は暴走寸前だ。
けれどもたしかに。
相手が月でなければ、竜崎はこれほどに欲情も興奮もしないかもしれない。
ひとのいちばんきたなくてみにくい部分を、信頼しあって重ね合わせて、痛くてもひとつになって。
それで快感がうまれるなんて、ほんとうに不思議だな。
「あ…───っっう、うあ」
まだ狭い月のなかに、竜崎がジリジリと喰いこんでいく。
言われるがまま懸命に息を吐き力をぬき、男を受け入れようとする。
痛みに首がパサパサ打ち振られるたびに、シーツに綺麗な髪と、綺麗な涙が。

腰を押しつければあがる悲鳴。ズルリとぬいて、奥まで突きあげる。月のなかは熱くてここちよくて、
膜に包まれる快感をむさぼるのに夢中になった。
竜崎のうごきにあわせ上下に揺さぶられる華奢な肢体。月は、おそらく苦しさの方が上回っている筈だけれど。

それでも手のなかの月自身はふるえながら先走りをこぼす。
「ひっ…うんっ…うっうあ…あああっ」
欲しい。メチャクチャにしたい。犯したい。壊したい。愛したい。守りたい。たいせつにしたい。
いとしい。

伝えられる感情と伝えられない欲望。すべてがひとつにまとまって混沌と。セックスの本当の意味なんて、
簡単に教えられるものじゃない。月は、この純粋なこどもは。それをどこまでわかっているのだろうか。

「っ」
「は…ぁっ………っっ!」
息を止める。
つよい痙攣とともに同時に高みに駆け上って、
ふたりいっしょに達した。
瞬間。透明な涙を湛えた月の瞳が、

───竜崎とだきあえて、うれしい。

ゆっくりと瞼がおりて、シーツに崩れたからだを両腕で抱き締めた。
なんて綺麗なひと



静けさをとりもどした室内を、窓からさしこむオレンジ色の夕陽が照らしている。
眩しさで、意識を失った月を起こさないようにとシェードをおろし、竜崎はそっと寝顔をのぞきこんだ。
待ち焦がれてやっと手にいれた、大切なこいびと。
疲れきって昏々と眠る表情は、それでも安心しきって穏やかに、微かに笑っているようにさえ見えた。
激情が去ったあとはただひたすらに、やさしく、あたたかい気持ちになれるのに。きっとこれからも行為のたびに
昏い衝動は尽きなくて、月はそんな自分を身体でこころで、受け入れてくれるのだろう。

幼くまっすぐで汚れを知らないがゆえに、ありのまま愛情も欲望もくるみこむ。
ちいさく溜息みたいな声をもらし竜崎の腕にすりよった、夢のなかのひとに届くようにと。
あいしてます。
あふれる想いを、囁いた。

なにも知らなかった無知で無垢なこどもに。
よろこびを教えたのは、私。
けれど貴方はそれ以上にたいせつなことを、
いつもとなりで教えてくれる。