シーツが濡れるのが嫌でベッドサイドでドレスを脱ぎすてた。紐をほどく作業を、竜崎も手伝ってくれた。

それからふたりで横たわる。いつもいっしょに寝ていたけれど、裸でベッドで向かいあうのはやっぱり
はじめてなので、不思議な気分だった。

夢をみているみたいな。
「緊張しますか?」
「そうだね」
「私もとても緊張してます」
あわせた胸から互いの鼓動。おなじように高鳴っている。
月はこんな場面に不釣合いなほど、綺麗に笑う。
「よかった」
「なにがですか?」
「今だから言えるけど、あのとき竜崎死ぬんじゃないかと思ったからさ。ちゃんと心臓、うごいてるし」
虹彩のない男の瞳がやさしい。髪を梳く指先も。
「心配をかけましたね」
「そうだな。…だけどオマエは、僕たちを守ってくれたんだ」
いのちをかけて。肩にのこる生々しい傷はそのあかし。目にするたびに本当は泣きたくなっていた。
悔恨と愛しさで。
「だから私を受け入れるんですか?」
きゅうに竜崎がグリンッと目を見開いて顔を近づけたので、月はパチパチッと瞳をまたたく。
「月くんは私に欲情しているわけじゃないでしょう?そのくらいはわかります。
なぜ急に私とする気になったのですか?」

そんなことをきかれても…それにその質問すごく無粋じゃないか…?
好奇心旺盛なのはなにも月に限ったことではなくて、雰囲気を壊してでも気になったことは追究せずにいられない
らしい男に月は苦笑した。そういう竜崎も好ましいとおもった。

キスもセックスも、好きならいずれしたくなります。
「竜崎はそう言っただろ?」
カクン、とうなづく。
「だけど僕にはよくわからないんだ。竜崎とキスをするのはきもちいいし、さわられるのも嫌じゃない。
こういう風にしているとあたたかくて安心する。
もうそれだけでいいかなって、思うんだ」

安心する。守られている。守りたいとおもう。
いちどは完全に失ったかもしれない存在。生きてまたこうして触れあえる。

欲望なんて月にはよくわからない。だけど竜崎が欲しいとねだってくれるなら、そうすることで竜崎をもっと深く
知ることが出来るなら。

その事実だけですべてが許せる。
「まあ、理由なんてどうでもいいです」
横になっていた男は上体をおこし、真上から月に覆いかぶさった。
無意識にすくんだ細い肢体をシーツに押さえつけると、

「逃がしませんよ」
両足を割ってあいだに入りこんだ。
隠すところなく視線に照射され、月は目をつむった。いま竜崎がどこを見ているのかあまり知りたくはない。
「やっぱり綺麗な色をしてますね。月くんはご自分でもしたことがなかったんでしたよね?」
「だから…なにを?」
「それで、その気になれというのは私も無理だとおもいます。なので理由はどうでもいいんです。
ただ貴方がこうすることを私に許した、いまはそれだけで十分です。

───そこから先は、これから私が教えてあげます」
今までずっと待ち焦がれていたのだ。ようやく手に入れて、
これから。
ひそやかに口許を歪め、わらうと、
竜崎の掌が滑った。



「…っ…」
身体のうえを竜崎がうごいている。どうしたら良いか見当もつかなくて、月はじっと身をかたくしている。
髪に、額に、まぶたに。降るようにキスをおくると、形の良い耳朶を甘噛みする。
ピクッとヘイゼルのちいさな頭が揺れた。

強張りきった肌が、かわいらしい。
「月くん。そんなに緊張しないでください」
声をかけると戸惑った瞳が返される。淡く染まった目尻にもキスをすると月はそっと目を伏せた。
「…僕はどうすればいい?」
「なにもしないで良いですよ。辛かったら私の背中に腕をまわして。声をかけてくださいね」
もっともかけられても、止める気はありませんが。
すこし困った顔をして、月は「肩の傷にさわりそうで怖い」と言ったので
「月くんの爪で抉られるなら本望です」とこたえておく。

それ以上のおしゃべりは許さず、すばやく唇を塞ぐとふたたび指を滑らせた。胸の飾りに親指で触れると、
感電したような震えがはしった。

かんじやすいな。竜崎は愉しくおもう。
「…ぅっ…ん」
口づけの合間からくぐもった声がもれる。苦しそうに息をつぐ月の舌を嬲りながら、交じりあった唾液を
おくりこみ嚥下させた。そのあいだにも指のうごきは止めない。突起をつまみ、撫でたり捏ねたりするたび
ビクビクと細腰が跳ねあがる。
いくらその気になったとはいえ、最初はだれでも怖気づくものだ。月が躊躇い抵抗しださないうちに、
快感に乱してしまったほうが事が運びやすい。

片手を下肢にのばし、うすい茂みを弄った。
「!」
驚愕したように、それまでシーツを掴んでいた月の両手が竜崎の腕を止めにかかる。かまわずさぐりあてた
若茎をにぎり、まだ何の反応も示していないそれをやんわり加減しながら扱きはじめる。

「うっ…ん…っ」
何度もなんども、逃れるみたいに月の腰がゆれ咽喉が鳴った。シーツの波を足が蹴り、膝が立てられる。
はじめてであろう月に、あまり強すぎる刺激を与えないよう気をつかいながら、竜崎は時間をかけて快感の淵に
追いつめていく。
興奮していない訳ではないのだ。だがまずは冷静に、月に悦びを教えこみ溺れさせて。
自分が愉しむのはそれからだ。

弄くっていた胸の突起が芯をもち硬くしこり、もう片手のなかで月自身がトロトロと蕩けはじめた。先走りの
粘液でよりスムーズに煽りたてる。口づけたままの行為に、上からも下からも水音が卑猥にひびいた。
飲みこみきれない唾液がこぼれ、くびすじをつたう。

「…く…っん、んー…」
ああそろそろだ。
顰められた眉がたまらなく艶っぽい。立てられた内股がこまかく震え、爪先がもどかしげに宙をきる。
月の限界をかんじて、竜崎は手のうごきを激しくした。裏筋を辿りくびれから先をなぞり、先端を集中して苛めぬく。

月の爪がキツく竜崎の腕に立てられ、おなじように爪をたてると、
白濁があふれた。
「…っ───…っっ」
さいごまで悲鳴はのみこんで、唾液も啜りそれからやっと唇を離してやる。
とたん、噎せたみたいに咳きこみながら月は必死で深呼吸する。

ながい睫にのっていた涙が、ポロリとこぼれた。
かわいい。
「どうでしたか月くん。感想は」
悪趣味だとおもったが口にするのを止められない。
月は茫然と上向いたまま、しばらくうすい胸を上下させていたが、

「…なに…いまの…」
ひとりごとのようなそれに、逆に竜崎は目を剥いた。
まさか、
「射精そのものがはじめて?」
「………」
よくわかっていないらしい月に、手についたモノを掲げると汚物を見たように眉間に皺をよせた。
しかし「貴方が出したんですよ」と言うとギョッとして、

「病気…?」
動揺もあらわに口走るのに、竜崎は反応のしようがない。
まいったこれは。
いったい、夜の国では子供たちにどういう性教育をしているのだ。
そんな事をいま考えても仕方がない。考えなければならないことは、このまま行為を進めてもいいかどうかだ。
強引にセックスに及べば、性についてあまりに無知な月を下手すると壊しかねない。

竜崎は月を見る。月も不安そうに竜崎を見つめている。
その頬も肢体も鮮やかに上気して、濡れた宝石のような瞳がひかりを反射している。やわらかな唇も、
肌理細やかなましろい肌も、さきほど苛めたばかりの若い茂みも。

目の前で蜜を垂らしあまく誘う、瑞々しいからだ。いったい誰が我慢できるというのだ。
「しよう竜崎」
穏やかな声が逡巡を絶ちきった。
月はちいさく微笑すると、
「たぶん大丈夫だよ。よくわからないけど、オマエがちゃんと教えてくれるんだろ?」
「…怖くはありませんか」
「怖くないっていえば嘘だけど…竜崎を信じてる」
セックスについては何も知らないけれど、抱かれることを決めたのは月の意思だ。
竜崎に出会ってからずっと時間をかけて考えて、決断した。だからもう迷わない。

「意地っぱりですね」
気が強くて。まっすぐで。意固地で。そんな月を、竜崎は好む。
純粋な子供を騙すみたいな心苦しさはどこかにあったが、いつかは散らされる華であれば、いま、自分が手折った
ところでかまうものか。
枷が外れた。
もういちど圧しかかると従順に押し倒された。こんどは緊張することなく力が抜けていて、竜崎の行為から
少しずつ学んでいるらしい月が愛おしくてたまらない。

シーツに散った髪に指を絡め、キスを。
「好きです月くん」
「僕も好きだ。竜崎」
真正面からつたえられる、月のきもち。
頸から胸へ、背中へ、腹へ。余すところなく手と舌を這わせ、所有の痕を散らす。汗ばんだ皮膚がそのたびに
綺麗に波うった。月は、歯を食いしばっても咽喉から勝手にもれる自分の声が信じられない。掠れていやらしく、
子猫が甘えて鳴いているみたいなソレ。

「く…んっ…」
「素直に声をだしてください。その方が楽ですよ」
噛み殺しきれない喘ぎを耳に心地良くおぼえながら、徐々に竜崎は身体をずらしていく。
「…ん、んんっ…っっ…えっ?」
うろたえた月の細い啼き声があがった。
気にもとめず、ひと舐めしたものをすっぽりと咥えこむ。熱い口内で飴玉を溶かすようにしゃぶると、
今までとは段ちがいの快感に月が全身をひきつらせた。

「りゅっ…うあっ…あっ…あああっ」
「きもちいいですか」
「やっ…な、なにっ…うんっん、んっ…」
口からはずして太腿のつけねにも鬱血をのこす。月自身、見ることが叶わないであろう場所に自分のしるしを
刻んでいく。
先端をふくみ同じように吸いあげると、はげしく背をしならせ痙攣をくりかえした。

声を抑えることもできない。高い悲鳴。
「大丈夫ですか月くん」
「あっあっ…ひっあ…っ…」
「我慢しないで感じて。きもちよければ正直に反応しなさい」
「やめっ…りゅうざ…もっ…や…っ」
「いま止めたらつらいのは月くんです」
酷いことを言っているとは思うが、しかし事実ここでストップするほうが拷問に近い。
とはいっても過ぎた悦びは慣れない月にとって苦痛と同じだ。竜崎は月を楽にするために、両手でしたたる若茎を
扱きあげながら舌と歯をつかって丹念に嬲った。

蜜の詰まった果物をやさしく齧り、
芯に舌をしのばせ果汁を舐めとる。
「やだっ…い、やっ…ああっ…あ、あ、あっ」
月の意思に関係なくゆらめく腰。脊髄をかけぬける痺れ。脳裏に散る火花。のけぞる背筋。
何がなんだかわからないまま、必死で目を瞑りこらえる。顎があがる。

「───…っっ!」
まっしろになる。砕け散る。いっきに電流に焼かれ、限界まで身を撓らせたあと、
ガクリと弛緩し、シーツに沈んだ。
口内に散った月の雫を、竜崎は甘く嚥下した。