やさしく愛したい、というきもちが欠片もないといえば嘘になる。
けれど月の姿が視界に入り、しなやかな肢体が瞳に映り、誘いかける吊りあがった紅い唇が網膜に焼きついた
途端。

欠片はこなごなに砕け、理性は跡形もなくきえる。
「!」
いつだって竜崎と月のセックスは唐突にはじまるのだった。

掴んだ腕が、肩からぬける勢いでふりまわした。同時にすばやく足をはらうと月は頭から冷たく固い床に
倒れこむ。咄嗟に受け身はとっただろうが、秀麗な貌が苦痛に歪んでいる。
しかしかまわず圧しかかりシャツを引き裂いた。

「竜、崎」
破いた衣服で両腕を拘束する。逃れようと暴れる下肢から手際よくズボンも下着も取り去り、日に焼けていない
しろい太腿をかつぎあげる。月の踵がどれだけの必死さで背中を蹴りつけようとも、気にもならなかった。
晒した、まったくふれても慣らしてもいない、本来は性を受け容れるためにあるのではない器官に
容赦なく突っこんだ。

「─── !」
まともな声にならない。引き攣った悲鳴。見ひらかれる双眸。焦点を結ばなくなる両眼。
限界までのけぞり硬直する肢体。
浮きあがった、足とおなじくらいましろい月の背中に、幾筋も朱がつたった。

嗚呼。たまらない。きもちいい。
興奮する。瘧をおこしたみたいにガクガクふるえる華奢な腰をさらに激しくつきあげる。そのたびにヒッ…と悲痛な
嗚咽が月の咽喉からもれる。フラフラ振動にあわせて揺らめく爪先が、ときおり助けを求めるように宙を掻く。

つねに理性と知性と強靭な意志力のひかりを宿す月の琥珀色の瞳が、虚ろに照明を反射する。
色を失くした綺麗な顔をみて、それから視線をすべらせ下肢の茂みをのぞいて、竜崎は哂った。
月の肉体はたしかに反応していた。
「きもちいいんでしょう。月くん」
「ひっ…いっ…っ」
「痛いのがお好きなんですよね月くんは。こうやって乱暴にされるのが感じるんですよね貴方ってひとは」
「うあっ…りゅっ…」
「この変態」
「うああっあっ…あああっ」
抱えこみより深くつながり、貪る勢いでグラインドを繰りかえした。流された赤い血液と先走りの白い体液で
やがて月の内部は潤い、注挿はスムーズに行われはじめる。

竜崎の下では月が為す術もなく揺さぶられ、屈辱と苦痛と恐怖をかんじているはずなのに、月自身の若茎はあたまを
擡げたまま、雫をトロトロ溢しつづける。

「い…やっ…」
「嘘ですね」
「うっ…うっ…っっ」
乱暴につかみ先端をギザギザに荒れた爪でえぐると、月の頸がガクリと反らされた。掌になまあたたかい濡れた感触。
僅かに弛緩する内壁。竜崎のめくれあがった口の端から不揃いな歯がのぞく。哂っている。

「ひっ…あっ───あ、あ、あ」
射精に脱力し完全に糸が切れた月を、竜崎はおもう存分に好き勝手、味わうことができる。
捕らえた獲物をじっくり租借する捕食者の如く。
竜崎と月の関係は、まるで自然世界の理のそれだ。追うものと追われるもの。喰うものと喰われるもの。
竜崎は、月を抱いていると錯覚しそうになる。これは自分のための存在。
自分に喰われる為だけに生きている夜神 月。

それが夜神 月の歓び。
本当はやさしく愛したいとおもうのだ。しかし月もそれを望んでいない。いたぶられ傷つけられ辱められて
悦ぶセックスを望んでいる。
その証拠に。
竜崎の熱塊に貫かれるたび打ちふられる頭は、痛みだけによる動きではない。パサパサと床に乱れる絹糸は婀娜っぽく、
時折チロリとあかい舌が唇を舐め、肌理細やかな皮膚とながれる汗に誘われて。

そう。いつだって竜崎は月に誘われるのだ。雌が雄を誘うように。
食べて、と。
性欲と食欲はおなじだとだれが言ったか。
柔らかな細い首筋に噛みついた。ちからいっぱい、歯をたてた。
肉が断ち切れる感覚と、口内に鉄錆臭い味が充ち満ちた。
「ぐっ…うっ…あっ…ああっ」
「ああおいしいです月くん。貴方は血液まで甘いんですね」
「りゅ…りゅっ…う…んん」
グリグリと結合した性器で月のなかを食みながら、ギリギリと顎に力を籠めていく。断末魔のような月のかぼそい
喘ぎが長い尾をひく。

動物の、雄の本能が歓喜のさけびをあげる。
殺せ。
「…このまま咽喉笛を噛みきりましょうか」
「ひうっ…ん…んあっ…ん、んっんっ…」
「いいんですか月くん。貴方死にますよ。このままだと殺されますよ。私に」
「りゅ、う…ざ…っ」
このままこの関係を続けていれば。いつかきっと。竜崎は月を。
Lとキラ。断罪者と犯罪者。追うものと追われるもの。喰うものと喰われるもの。捕食者とその餌食。
竜崎のために存在する夜神 月という存在。いずれその命を竜崎の手で。

やさしく愛したいとおもう竜崎自身の掌で。
やさしく愛したいとおもう竜崎自身が喰う。

唐突に。

グイッと月の両腕が竜崎の頸に巻きついた。いつの間にか拘束を解いていたらしい。
締められる。咄嗟におもった。
しかし月の腕は竜崎を絞め殺したりはしなかった。頸からはずれた竜崎のあたまを優しく抱き、ゴワゴワした黒髪に
指を絡め、愛おしそうに頬をすりよせる。
その仕草には、今のいままで暴力的な性行為を強いられていた被害者の面影など何処にもない。

夢みるような恍惚の炎が灯る瞳で、竜崎をみて、うすく微笑んだ唇がチュッ…と音をたてて口づける。
そのまま予想外の勢いで上体を起こした月に押し倒されて、
繋がったまま体勢が上下逆になった。

「月、く、ん」
みあげた月の顔。長めの前髪が影をつくる白い貌。整った、完璧な、綺麗な、自らの血にまみれた壮絶に妖艶に
うつくしい竜崎の獲物。

「はは」
「月くん」
「ははは。あははは。
あはははははははははははははははははははははははははははは!」

哄笑が響きわたった。しかし竜崎がなにか言うより早く、月の内壁が蠢きはじめた。
竜崎の腹に手をつき竜崎のうえに乗って、自ら腰を揺らめかせて月は悦楽を貪る。
体内から溢れた白と赤の混じった液体がタラタラと内股を流れおちる。噛み切られた頸からも脈打つみたいに
ドクドクと血が。

それすら、きもちいい。
「はっ…は、あ、ああっあああっんっ」
無我夢中に泡立つほど抜き差しして、下から突きあげられる衝撃に背筋を撓らせ、何度もなんども、白濁を放った。
追われたい。月は追われたいのだ。竜崎に。捕まったら殺されるという本能の必死さで月は逃げる。
けれど捕まりたい。とらえられ拘束され、指いっぽん動かせないまま身体の端から骨の髄まで、
味わいしゃぶり尽くされ喰われていく愉悦。

竜崎に痛めつけられ傷つけられて衰弱して死んでいく自分を想像するだけで、月は興奮する。
殺して。そして食べて。
それが月の望み。

やさしく愛してほしいなんて思わない。自分たちは対の存在。追って追われて喰って喰われて、互いが互いの為に
存在する自然世界の理のそれ。自分のための存在。自分を喰らう為だけに生きている竜崎。それが竜崎の歓び。

やさしく愛したいとおもう竜崎自身の掌のなか。
やさしく愛したいとおもう竜崎自身に喰われる。
それをじつは真実の愛と呼ぶかなんて知らないけれど。
月は感極まった高い啼き声をあげながら、竜崎で腹のなかをいっぱいに満たして、
蜻蛉は蟷螂に甘いキスを強請った。