「もしもあなたがキラだったなら」
全ての事象を理由づけて話そうとする男は、毎日必ず、その例え話をした。爪を咬みすぎて白い部分が僅かしか残らない指先が、
月の唇におそるおそる触れる。
言葉はこれ以上もなく不遜な癖に、冷たい肌はいつもためらいを含んでいる。
鎖で繋がれた二人は決して離れられないというのに。
世界が反転し、竜崎の背中ごしに白い天井が見える。
背にするソファよりも、竜崎の肌の方が冷たかった。
「あなたを監禁して、誰の目にも触れないように、閉じ込めます」
「それは、君の願望かい」
何度と無く聞かされた、閨の戯言じみた言葉に、月は整った眉をしかめる。自分がキラだと聞かされて不快に思わないはずは無い。
ましてや、竜崎の目にしか届かない場所で監禁されるという未来は、月の体に肉欲を抱く男の
狂った恋情の果てとしか思えなかった。
「狂ってる」
けれど、こうして男に体を開く自分も狂っているとしか思えない。
快楽に流されたのか、特殊な環境に侵食されているのか。
竜崎の侵入は、芋虫が体の中をよじ登ってくる感覚に近い。それが快楽になるなど、酔狂以外の何物でもない。
どんなに月が乱れようとも、竜崎は無表情だ。なのに欲望だけを膨らませて、最後に逝く。
彼が何を以って動いているのか、月にはまるで理解できない。
「仮に僕がキラだったとしたら」
足先を絡ませながら、月はゆるく笑った。早く退いて欲しいのに、また欲しがっていると思われたようだった。
僅かに固さを取り戻した竜崎が、ゆっくりと動き出し、月は奥歯をきつく噛んだ。
「君に捕まった瞬間に、どんな手段を使ってでも、死を選ぶ。それこそ、死神に祈ってでも」
膝を抱えると、肉の隙間から泡立った精液がこぼれた。月の奥に留まったまま、竜崎は月を見下ろしている。
二人の体はどんなに交わろうとも、冷たいままだ。
「君に飼われるなんて、プライドが許さない」
「そうしたら、私は」
深い隈が刻まれた、竜崎の瞳が半月を象り、長い指先が月の胸の上をなぞった。ゆうるり、ゆうるりと。
「棺いっぱいに赤い花を詰めて、あなたの死体を飾りましょう。常に花が枯れないように。あなたの死体が骨になるまで」
「キラは殺人鬼なのに?」
「死体は死体ですよ」
そして広がったてのひらが、月の胸元を覆った。
「キラである前に、夜神月という名の人間の」
傾いできた頭が月の胸に乗せられた。まるで祈るように。竜崎の体は胎児のように丸まり、そのまま動かなくなった。
「私は、あなたの棺にいつまでも縋って泣きます」
竜崎の網膜の裏に何が映っているのか、月には想像の仕様が無い。なのに瞳を閉じると、鮮やかな赤が見える。
血の色。罪の色に包まれて棺で眠る自分。
縋りつく竜崎。神をも恐れぬ冒涜を行う彼。
「その時に私は思うのかもしれない。全世界の命とあなたとを天秤にかけ、それでもあなたに生きていて欲しいと」
月は赤い呪縛から逃れるように瞳を開いた。
「いい気分ではないな。キラ扱いの上に、勝手に殺されたんだから」
「ええ、そうですね」
顔をあげた竜崎は、泣いてはいなかった。月の中に潜っていた竜崎はいつの間にか達したのか、力を失っていた。
機械的に引き抜かれ、月はソファの外に足を投げ出した。内腿を伝って精液が落ちていくのを感じた。
「君が死んでも、僕は泣いてやらないよ」
「月くんは薄情ですね」
竜崎の指が月の足に触れ、流れる精液を逆流し、月の足の付け根に触れた。性的意図はない。ただの単純な確認作業だ。
「でも、その方があなたらしい」
男は月のペニスに触れると、先端から流れた精液の残滓を掬い取り、舌に乗せた。蜂蜜でも舐める仕草で。
「多くは望みません」
竜崎の喉仏が小さく動いた。月の一部が彼の胃に落ちた証拠だ。彼の食す甘ったるいものと一緒に。
「ただ、あなたの手でも、そうでなくても、わたしが死ぬような日が来たら」
薄い唇が歪む。
それは月に笑いかけるようでも、自嘲のようでもある。
「白いバラの一本でも、手向けてやってください。あなたがキラでも、そうでなくても」
月は綺麗に、無邪気に笑い返した。
「君が天国に行けるはず、ないじゃないか」


けれど、彼に手向けられた花は白いバラだった。


「Aesthetic」  presented by 横山久乃 様 (reasonkiller)