掘り返している黒々とした土は、誰かの肌を思い起こさせる奇妙な温かさを保っていた。
ボンヤリ浮かびあがる薄闇のなか、ザクッ…ザクッ…と鈍く緩慢な音を立て、月はひたすら無心に、地面を掻き分け
続けている。
乱れた髪、泥で汚れた秀麗な貌、動物のように這いつくばる身体、
四肢を地べたにつき、獣みたいな体勢でなりふりかまわず脇目もふれず、無心に目的のモノを探し求めている。
固い地面を相手にした素手での無謀な作業に、すぐさま爪が割れ、剥がれ、大量の赤い血が吹きだした。
両掌がドス黒く穢れたところで、一向に構う様子すらなかった。
やがて。
指先がコツンと、何かに行き当たった。
フ、と息を吐いた月は、鬱蒼と昏く微笑んだ。
現れたのは男の遺体だった。
生前の、ボサボサの黒髪も、土気色の肌も、湾曲した背中もそのままの状態で横たわっている、骸。
隈で縁どられた両眼はヒタリと閉ざされ、けして開けられることはなく、その表情は意外なくらい穏やかに満たされた、
まるで子供の眠る横顔。
ユラユラ闇を漂う風に、フワリと花の香りのごとく、甘く、腐臭が広がっていった。
埋められてからさほど時間の経っていない今は、原型を保っていたとしても。確実に、この、かつてヒトであったモノは
腐り、朽ち果て、やがては消えて一欠けらも無くなる存在。未来永劫完全に。
月はおもむろに両腕を伸ばした。
男の死体を胸に抱えあげ、ギュウッと抱き締めた。
死後硬直が解けて、グニャリと撓む肌の不自然な感触に、怖気たつ吐き気を催したがジッとこらえ、
腕の中のソレを確かめるかのように強く抱擁し、離さなかった。
そして、
不意に放り投げた。
ダラリとした死体は柔らかな粘土玩具をおもわせる。呆気なく、歪に潰れ落ちた。
「は、は、はは」
───あははは、はははははははははははははははははははははははははは!!
あたりを切り裂く、響きわたる哄笑。
月は高らかに声をあげて叫ぶ。宣言する。
ざまあみろ!L!僕の勝ちだ!キラの勝利だ!!
それから。
ある時は、ひしゃげた死体の肩を掴んで、激しく揺すりながら嘲った。
これで分かったか竜崎。オマエは間違っていた。僕が正しかった。本当の正義はLじゃない、キラだ。
オマエはキラという新世界の神に逆らった罪で死んだ。自業自得だ。いい気味だな。
馬鹿で愚かな人間めと、声が嗄れるまで罵倒しつづけた。
ある時は、ひしゃげた死体の首を鷲掴んで、力一杯締め上げた。
抵抗も苦悶の声もない。手応えが無いのがいっそ物足りない。そもそも相手はとっくに死んでいる。
それでも、出来れば自らの手でそうしてやりたかったのだと、ずっと願っていたから。
最後の最期まで月は、男に直接手を下す事は叶わなかったから。
ある時は、ひしゃげた死体の顔を衝動にまかせて殴りつけた。
腐敗し始めた男は脆く、拳で簡単に肉片と化す。元の相貌が判別つかなくなるまでメチャクチャに打ちのめし、
飛び散る皮膚や肉が一面に撒きちらされ、次第に頭部はカタチを失い、
しまいには首から上が全てなくなるまで、無惨で無意味な暴力が振るわれた。
ある時は、
月は、ひしゃげた死体の頬を両手で優しく包んで、敬謙に口づけした。
下ろされた瞼にも、懐かしい鼻梁にも、物言わぬ唇にも。
キスは、生々しく死の味がする。胸をつく嘔吐感を耐えて貪った。
もちろん爛れた男の舌は月に応えない。それでもいいのだと深く求めて、もっともっとと、欲しくてほしくてガマン出来ず、
ついに身体を繋げた。
ブヨブヨに膨張した竜崎の肉塊を引きずり出して手で支え、強引に体内に押し込むと、
月はやっと、安堵の溜息をつく。
かつての苦痛と快感を得るために夢中で自ら動き、ガクガク腰を振る姿は憐れで、滑稽そのものでもあった。
月は、涙を流している。
嘲笑しているときも、激怒しているときも、狂気にかられているときも、善がり狂っているときも、
涙を流して大声で男の名を呼ぶ。うわごとみたいに、何かを伝えようとする様に。
竜崎。竜崎。りゅうざき。
僕はオマエを。
そこでいつも、目を覚ますのだ。
冷汗に全身がビッショリ濡れていた。
ときには瞼が、ときには下肢が重かった。鼓動がドクドク乱れ打っていて、たとえキラとして誰かを殺す際にすら、
月がこれほど動揺することはなかった。
いずれ自分が心臓麻痺で死ぬんじゃないかと思うくらい、毎夜毎晩、悪夢に魘されている。
「リューク」
低い声に、部屋の隅で、深夜の暗闇に凝っていた死神が「なんだ?」と応えを返す。
「答えてくれ。───僕は狂っているか?」
とぼけた死神はとぼけた口調で即答した。
「さあなあ。ライト、俺にそんなの分る訳ないだろう」
「はは、それもそうか」
おやすみ、と言って月はアッサリ、再び瞳を閉じた。
悪夢など気にせず、眠らなくてはいけない。睡眠はとても大切だ。健康な身体と精神を維持するために。
明日も明後日も、新世界を創世するべく戦いの日々が待っている。ようやく鬱陶しい障害物を排除して、目指す理想郷は
すぐそこだ。何としても辿り着くのだ。
キラは、僕は、新世界の神となる。
リュークが「面白」と呟いたのが聞こえた。スウッと意識が遠のいて、薄茶の双眸が閉じられた。
「ライトは神なんかじゃないなあ。むしろ………」
その先の死神の声は、聞こえなかった。
キラとLの、生死を賭けた勝負の決着がつき、竜崎がこの世から消えて少しの時間が経っていた。
捜査本部で死んだ竜崎の遺体には、誰も引き取り手がつかなかった。
別の場所で、同じくキラに殺されたワタリことキルシュ=ワイミーの遺体は、彼が有していた財団の関係者が
どこからともなく粛々と現れ、粛々と運び去っていった。
生きている時のワタリは、Lを支え、Lの手足として働く万能な紳士であった筈なのに、
亡骸は、驚くほど軽く、小さく、ただの干からびた老人であった事実に、月は軽い衝撃を覚えた。
竜崎もおなじだ。
生前、キラの前に聳え、ことごとく立ち塞がっていた最大の難関。は、
もはやピクリとも動かない。喋らない。月をキラだと疑わない。月を見ない。
白い布にくるまれ、安置され、処分を待つだけの廃棄物。
月はその処分について、一連の騒ぎのさなか、竜崎とワタリの遺体を引き離すなんて酷いな、と、
トンチンカンな憤りを感じたりしたものだが、ソレも仕方ないのだろう。
財団の関係者の彼らにしてみれば、ワタリや「L」が仕出かした数々の件の後始末について、
とても引き受けられないと判断したのだろう。
彼らは、あくまでキルシュ=ワイミーの縁故であり、「L」の存在と死は断固として認めようとはしなかった。
知らぬ存ぜぬで押し通し、認める訳にいかないのは、分かった。
だから。
竜崎は結局、総一郎の計らいで身元不明の死者として処理され、
日本国内の霊園に、極秘裏に埋葬された。
葬儀に立ち会ったのは当然、捜査本部の者だけだった。月としては、コレはコレで都合が良いと満足した。
これで、完璧に男の消失を確認できる。
なかなか竜崎の死を実感し得ないのは、それまで散々、勝ったと思っては追い詰められる逆転の繰り返し、
手強い相手だったからこそ、だ。なかなか現実が信じられない。
やっと死んでくれたと安心した途端、ヒョッコリ黄泉還ってくるかもしれない。
素足にスニーカーのペタペタした独特の足音が耳から離れてくれず、片手をポケットに突っこみ、片手の爪を噛んでは
ニマニマ笑って、あの上目遣いで、残念でしたねえ月くん。
いつ、またやって来るかもしれない、と。
あのLという人間なら。
そんな猜疑の念を抱いていたのも、黄昏時の美しい夕焼けのなか。高台に建てられた簡素な十字架を
目の前にするまでだった。
唐突に、月は悟った。Lの死を。
竜崎は死んだ。
竜崎は、もうこの世のどこにも居ないんだ。
もう二度と、逢わない。アイツを見ない。アイツも僕を見ない。言葉も交わさない。
疑りあうことも、憎しみあうことも、抱きあうことも裏切る事も、笑いあうこともない。永遠に───
腹の奥から訳の分からない激情が沸騰して溢れた。
総一郎や他捜査員たちが静かに立ち去っていくのを横目に、どうしても足が動かず一人その場に残り、
直後。
十字架に、その下に埋まっている男に向かって、人目も憚らず絶叫していた。
ああ、べつに大丈夫さ。墓場で、哀しみのあまり錯乱する人間なんて世の中には沢山いる。
でも僕は哀しいワケじゃないけれどね。そう、嬉しいんだよ。嬉しくて狂おしくて、ざまあみろと、
勝ち誇りたい気分だった。
残念なことに死者は何も応えられない。その事だけが、ほんの少しだけ虚しかったものの。
さいわい周囲に人影はなく、背後に暢気に浮かぶ死神が、これで面白いモノはもう終わりかと。
つまらなさそうに独りごちるのが耳に届く。
いいやリューク。これからだ。
これから僕は神になるんだ。新世界の創世を見せてやるよ。
そうか。それは楽しみだな。でもライト、オマエは神なんかじゃないなあ。むしろどちらかというと………
毎日、月は夢のなかで竜崎の墓を訪れる。
毎晩、月は土を掘り返し、竜崎の死体を抱き締め、その名を呼び、泣き叫ぶ。
死んだ男は答えない。応えない。生前のように月の背を抱き返すこともない。甘い嘘を囁かない。キスしない。
急に、蜘蛛の足みたいな男の10本指が、グワシッと蠢いた。
死斑の浮いた腐敗した肌が、波のごとくうねった。
驚いた月が身体を離そうとした瞬間、もの凄い勢いで男の両手が、月の首根を掴まえた。
パニックに陥る。必死で抵抗し、遮二無二振りほどこうとする。竜崎は離さない。
息が苦しい。殺される。イヤだ。助けてくれ!
しかし逃げられもせずに、そのまま、月を捕えたまま、竜崎はズルズルと地中に沈んでいった。
諸共に引きずり込まれた土の中は、男の体温とおなじ温かさだった。
「───!!」
また真夜中に飛び起きるハメになった。
「…くそ…ちくしょう…」
月自身にも、どこか自覚があった。
ただ単に邪魔なだけの相手を排除したのであれば、ここまで影響を受けたりはしないのだ、と。
竜崎という最悪の目障りな敵がいた頃。逆に、張り詰めた充実した日々だったのは確かだ。
なので、奴がいなくなって「ぬるい」と感じるのは当然なのだ。
すぐに忘れる。忘れてみせる。淡々と粛々と、自分が為すべき事を成せばいい。そうすればもうじき、
欲しかったモノに手が届く。
新しい世界を創りたかったんだ。善良な人々が当然に幸福になれる、そんな理想郷が目標だった。
正しい世の中を実現し、弱い人間を導き、正義を守る神となるのが、デスノートを拾った月のただひとつ目指す
ゴールであり、他は何もかも通過点でしかなく、
それなのに。Lが、竜崎がキラの、月の視界に立ち塞がった結果、
道がズレて、迷った。
気がつけばいつの間にか、月にとって、竜崎を倒すことそのものが目標にすり替わっていた。
現在。障害が無くなって目の前に広がる道程と光景は、以前の月が見ていたモノと同じであろうか。
同一である筈なのに、違う。こんなにもちがう。つまらなく見える。色褪せて感じる。
変えられてしまったんだ。歪められてしまった。アイツに。
───夜神くんがキラであって欲しかった………
耳元で幻聴が木霊して、ゾッと震えた。
竜崎のキラに対する妄執は凄まじかった。竜崎の月に対する妄執は凄まじかった。
竜崎が口にした言葉すべてが月を捉え続けた。結果、竜崎が、月に拘っていたのに、月が、竜崎に囚われた。
あの男は知っていただろうか。分かっていたのだろうか。
勝負に勝っても負けても、月に刻まれた竜崎という傷跡の大きさと深さ。
畜生。屈辱だ。
墓の下で、男が低く含み笑っている声が聞こえる気がする。腹が立って腹が立って仕方ない。
罵倒だけに留めず、十字架の前で自慰でもしてやれば良かったんだ。
そんな風に考える自分がおかしいとは、思わなかった。
あの男はいまも月のナカで、月を見ている。見せつけて煽ってやれば良かった。
死んだ過去の男に向けて、
ざまあみろ。オマエはもう僕に触れることは出来ない。僕を抱くことは出来ない。
どんなに望んでも、強請っても、怒っても泣いても喚いても、
月が、竜崎に抱かれることはもう絶対に出来ない。
時間は流れる。
竜崎がいなくなり、月が喪失に欠けていったところで、世界はそうそう変わりもなく、
キラの理想も、現実も。成就を望む者たちも、阻止しようとする者たちも。
運命という名の歯車はカラカラカラカラ、定められた終わりに向けて一途、回り巡るのみ。
雨の降る日。
新しい捜査本部となったマンションの一室で、松田がポツリと呟いた。
「そういえば…今日は竜崎の命日ですね」
余計なことを言う。PCに向かったまま、月は微かに眉を顰めた。
忘れていたのでなく、忘れられなかった。忘れたいからこそ黙っていたのに、この馬鹿が。
沈黙に、コメントを求められている気配を感じて、ちいさく吐息を洩らすと月は言った。
「そうですね。彼の無念を晴らすためにも、僕らが力を合わせ、絶対にキラを捕まえましょう」
「そっすね!僕たちが竜崎の分まで頑張らないと!」
ワザとらしい笑顔でお決まりのセリフを口にすれば、単純な男はアッサリ納得して頷く。隣では総一郎が、
「涙雨か…」と遠い目で窓の外を眺めている。
ああ、父さん。違うよ。
アイツが死んだ日は、あれから毎年雨が降っているんだ。嫌がらせに決まってるじゃないか。あの男の。
いかにも竜崎らしいしつこさだな。
あの日の出来事を思い出させる、雫の音。
雨の屋上で投げつけられたセリフ。
───
一度でも本当のことを言った事があるんですか?
あるよ、竜崎。
僕はキラの記憶を失っているあいだ、いつだってオマエに対し、自分自身に対し、真摯だった。嘘偽りなかった。
そんな僕を容赦なく裏切ったのは、オマエの方だ。竜崎。
「手錠をしている限り、死ぬときは一緒だな」
「そうですね。私達は運命を共にする仲です。月くんと私、そういう出会いだったんですね」
下らない嘘ばっかり。なのに、真実な言葉の数々。
そのとおり、竜崎はLとしてキラに殺され、月はキラとして竜崎を殺した。
まるで互いが互いに出会う為だけに、二人はLとキラであったかのように、どこまでも繋がりあっていた。
キラにとってのLは問答無用の宿敵だったが、ノートの所有権と記憶を喪失していた月にとっての竜崎は、
監禁し、手足を拘束し、クスリを使ってまでムリヤリ自分を犯した男。
という認識で、心から憎む相手だった。
好き勝手に肉体とプライドをズタズタに引き裂かれて、けして赦すものかと誓った。
同時に、自分をこの世で一番、理解しているのは竜崎という人間なのだとも、分かっていた。
だからこそ暴力を伴う性的関係を耐え、キラ事件が解決さえすれば。
二人で協力し真のキラを捕まえ、月の容疑が晴れ、身の潔白を証明して、一個人の権利を取りもどし、
竜崎と対等な立場に立つことさえ出来れば。
捕らえるモノと捕らわれるモノ、犯すものと犯されるものの歪んだ関わり方も解消され、人として在るべき正しい関係に
なれるのだと、信じて疑わなかった。
信じたかった。それくらい大切だった、月にとっての竜崎という存在。
純粋な想い。まっすぐな友情や相手を愛しく想う気持ちよりも、
人間の心には、昏い、憤りや憎しみや恨みの方が、より強く刻み込まれる。
それをもまた、あの男は充分に知っていた。
雨の屋上と非常階段。あの日、あのとき。
濡れた月の足を恭しく拭った竜崎は、月が、キラの記憶を取り戻したのを察していた。
察して、二人の間にあった行為と関係と感情とを月に忘れさせまいと、あんなマネをした。
セックスの際、動けなくなった月の身体を、男はよく丁寧に布で拭っていた。丁寧に愛おしむみたいに繊細に、
顔、首筋から滑らかな腹筋、茂み、下肢、両脚、足の爪先に至るまで。
一見、労りとも思えるその行動が、実は、月のなかに棲むキラを探す男の心理の表れだったのだと、
その時にやっと、月は気づいた。
キラ。私のキラ。
男の掌が足を撫でた刹那。
デスノートでなく、この場でこの手で絞め殺してやりたい。
爆発寸前の殺意を押し殺すので精一杯になった。
それすらをも正しく理解していた竜崎は、口角を吊り上げ薄らと笑っていた。
一度でも本当のことを言った事があるんですか?
あるよ、竜崎。
僕は、オマエが死んでくれて本心から喜ばしく思う。心底から歓喜した。
あの赤いあかい美しい夕焼けのなか、十字架の前で僕が叫んだ言葉は、真実そのものだった。
やった。勝った。嬉しい。狂おしい感情。
オマエがこの世界から消え去って、もう、二度と、永遠に、
僕は本当にほんとうにこころから。
なあライト。神様は、たった一人の人間をそんなに憎んだり愛したりしないだろ。
だって、神様はみんなの神様だからな。
だからライトは神なんかじゃない。むしろ。
憎くて、憎くて、憎くて、殺したくて殺したくてころしたくて
今までも今でもこれからもずっと
なのにそのオマエがもう僕の前にはいないんだ
竜崎。僕は、ぼくは、オマエを。
逝く時はいつでも雨が降っている。
そしていつでも脳裏には、あの夕焼けとあの十字架が鮮明に蘇る。
あの場所に、竜崎は埋まっている。黙って静かにソコで待っている。月は知っている。
それが月にとっての、この先の支えとなる。今日明日明後日、いつか死に至るまで、そのことが月の拠り所になる。
月は竜崎の葬儀後、二度とあの墓地には立ち寄らなかった。懸命に、退屈な世界で神になるべく足掻き続けた。
やはり雨の降り注ぐなか、YB倉庫で、ついに神に成り損なって罰を受け、
赤い夕焼けと血に染まりながら絶命するまで、竜崎の墓に赴くことはなかった。
アレは、月の還る場所だ。命尽きるその一瞬、あの墓の下から月のもとへ、竜崎が迎えに来る。否応なしに。
憎悪と愛情と、どうしようもない運命と絆で繋がれた二人は手に手をとって、
土の下へと還っていく。
階段にもたれ微笑んで、月はそのときを待っている。