「そしたらいきなり彼女がさ、いきなりだよ?泣き出してさ。そりゃ最近いろいろ忙しくて会ってなかったけど、
約束キャンセルしたくらいでそれはないと思わないか?少しはこっちの気持ちも考えて欲しいよね」
「大変でしたね。しかし、そこは月くんが譲って謝罪した方が丸くおさまると思います」
「謝ったよ!最初から平謝りで!ちゃんと次の約束もしたさ!
普段なかなか会えない海外生活の男友達が帰国するからって、事情もきちんと説明した。
それでも泣き止まないで延々責められて、もうカンベン。けっきょくそのままケンカ」
「女性とはそういうものですよ月くん。感情で生きているから理論は通りません。でも大丈夫です。
とにかくひたすら謝り続ければ、そのうちコロッと機嫌をなおします」
「えー…竜崎は、おとなだなー…てゆうか毎度の事とはいえ突然連絡してくる竜崎のせいなんだけどねぜんぶ!」
「すみません…」

ひさしぶりに会った竜崎との会話は、楽しい。
お互いの近況や仕事の話。竜崎の泊まっているホテルの部屋に、ケータリングの夕食とアルコール類をもちこんで、
夕方から深夜まで。途切れることなく僕らは語りつづける。
「今の彼女とは付き合いも長いし、そろそろ結婚も考えていたけど。ちょっと自信がなくなってきたな」
「急ぐことは無いのではないですか?仕事の方だって忙しいのでしょう?」
酒がまわると次第に愚痴やら悩み相談やらが多くなるのは、老けてきた証拠だっていうけれど。
外見も口調も飄々と、穏やかに変わらないペースで缶を傾ける竜崎には。親にすら話せないことでも、昔から何でも
話せる気がするんだ。
「んー…仕事は忙しいけどまあ順調かなー…新米のキャリア候補生なんて所轄ではお荷物扱いだってきいてたんだ
けどね。先輩方も親切だし、やりがいはあるよ」
「結構ですね。月くんを荷物扱いできるほど日本の警察は有能ではないと思いますし」
「へえ。世界の名探偵は、ずいぶん僕を買いかぶってくれてるんだな」
「事実です」
僕らはある事件をきっかけに出会った。僕はその時まだ高校生で、竜崎はすでに世界的に有名な探偵だった。
その名声と、実力と、竜崎の棲む未知の世界にその時の僕は驚愕し、羨望した。
まいにちが退屈でたまらなかった、ただの高校生の無力な僕は、竜崎に憧れ、嫉妬し、竜崎がだいきらいだった。
すこし大人になった今だからわかる。可愛いかわいい反抗期の子供。
当時の竜崎が、何かにつけて意地悪く僕をからかい遊び続けたのも、何となく納得できる。思い出すとものすごく
ムカツクけど。
「そういう竜崎は。どうなんだ最近。やっぱり公私ともに忙しかったりするわけ?」
「プライベートはともかくですが仕事は依頼が多いですね。月くんになかなか会いに来られない程度には、繁忙を
きわめています。ぶっちゃけすこし休みたいくらいです」
「それはお疲れ様…」
事件を解決に導くなかで、僕らは和解し仲良くなった。竜崎は僕のたいせつな友人になった。
そして、いまもかわらず。
子供の頃からの希望どおり、警察庁に勤めはじめた僕と住所不定の竜崎が、会える機会はそうそう無い。
たまに一方的に送られてくるメールで誘われて、僕はこうしていそいそと竜崎に会いにくる。たとえ彼女とのデートの約束を
キャンセルしても、それが理由で大喧嘩しても、だ。
そういう意味では僕にとって、彼女よりも竜崎の方が大事な存在なのだから。
「こんど長期休暇を取ろうと思ってます。いっしょに旅行でもしませんか?」
「僕が仕事を休めないよ」
「満足に有給も取れない職場環境なのですか。やっぱり警察辞めて私の手伝いをしませんか」
「いやだ。繁忙をきわめるってどの口が言った」
「ちゃんと一緒に休めるように配慮します。南の島でバカンスしましょう」
「そんなの彼女と行け」
「月くんと行きたいんです。女性よりも月くんとの方が楽しいです」
僕も竜崎と一緒だと楽しいけどね。本音は旅行も行ってみたいけどね。
そんな風に誘われるのも、本当は悪くないし。
笑いあって。そうやって下らないことを言い合いながら、
いつだってゆっくりと、夜はふけていくんだ。

ふと時計をみたら、ずいぶん遅い時間になっていた。まあもともと泊まるつもりだったので問題はない。
ホテル備えつけの豪奢なテーブルのうえには空き缶がいくつも。飲みすぎたかな。
すこしボーッとしながら取り留めもなく考える。
一度だけ。
きゅうに竜崎に言われたことがあった。
月くんが好きです。
僕も竜崎が好きだよ。
そう答えたら両肩に手がかかって、気がついた時にはその場で床に押し倒されていた。
驚いた。固まった。いつだって身近に、もしかしたら家族以上に信頼しているかもしれない人間が、竜崎が。
まったく別人にみえて。
抵抗はしたとおもう。潰される重みと全身で感じるひとの体温に、頭のなかがメチャクチャになって正直よく覚えていない。
フッと身体のうえから体重が退いて、頬をつつまれて瞼を開いたら
竜崎のひどく哀しそうな顔がそこにあった。
泣かないでください。
泣いてなんかないよ。馬鹿にするな。
こんな屈辱ははじめてだよ。オマエなんかだいきらいだ。
そういうと抱き締められて、ごめんなさい。と謝られた。
ごめんなさい。もう二度としません。許して下さい。泣かないで下さい。嫌わないでください。
小さなちいさな、情けない声で耳元で呟かれる世界の名探偵のことば。
月くんが好きなんです。
僕も、竜崎が好きだったから。
震えるほどの屈辱だったけれど、僕は竜崎を許した。
それからもういちど僕らは仲直りして、それからもういちど僕らは良き友人になった。

「月くん」
「ん」
新しいアルコールを差し出され、受けとろうとした腕を掴まれる。
けっして強くはない力。何をしようとしているのか、すぐにわかったけれど引かれるままに上体が泳いだ。
背中を支えられ唇に竜崎のそれが触れる。あわせるだけのキス。実はもう何度もしている。
けっこう懲りないヤツだよな…。
ほどよく酔いがまわっているせいか怒る気にもなれない。
竜崎も、きちんとそのあたりを見計らってしてくる辺りが憎らしい。怒る気にもならないけれど。
毎回掠め取られるみたいに、何度もなんども。数え切れないくらい口づけを交わして。
「旅行の件。真面目に検討してみてくださいね」
「んー…いちおうね」
「絶対行きましょう」
何事もなかったかのように会話が再開して、何事もなかったかのような顔をする僕らふたり。
竜崎には今、彼女はいるんだろうか。以前きいたときは居ないって言ってたけど。彼女じゃなくても、たぶんセックスする
相手はいるはずなんだ。
竜崎はゲイじゃないし、こう見えて意外にモテる男だから。
だったらそういう相手とそういうことをすればいいのに。僕みたいに。恋人と友達の関係は分ければいいと思うのに。
僕らは今のままでも最高の友人関係じゃないか。
僕が好きだから、僕とそういう事をしたいらしい。僕にはよくわからない。だって僕もゲイじゃない。

でも最近。
竜崎とのキスに動揺しなくなっている僕自身が、ちょっとマズイかな。と思う。
僕らは男同士なんだから、友達なんだから。キスしたりもちろんそれ以上をするなんて、本当はおかしいはずなのに、
そこだけは譲ってはいけない、と思っている、はずなのに。
スルリと。隣に座る竜崎の細長い指先に、さりげなく項を撫でられてゾクリ…と背中に痺れがはしった。
きもちいい。
狙ってやっているんだ。わかってる。なのに何故だか微妙に僕は拒めないでいるんだ。
そうやっていつの間にか互いの体温に慣らされて、ふれあうことに慣らされて。
また押し倒されでもしたら、今度こそ、僕は拒絶できないのではないかという不安にかられる。
けれど竜崎と話すのは楽しい。竜崎のそばにいると安心する。竜崎と、ずっと一緒にいたい。
彼女以上にたいせつな存在。
そこに肉欲までプラスされてしまったら、恋人と変わらないんじゃないか?いややっぱり男同士だし違うのか?いやいや
だって恋人はおかしいだろう?どうなんだ?
「…月くん?」
「…あ。なんでもない」
あやしげな表情で覗きこんできた竜崎に、慌てて空々しく笑みをかえす。
フム、と何やら納得する素振りで、それからどうぞとまた新しく開けた缶を手渡された。
酔わせる気かよ…絶対、ねらわれてるよ…。
わかっているけど離れる気もしない。
だって。僕は竜崎が
「月くん。好きですよ」
絶妙のタイミングで何百回目になるかわからない告白をされて、耳まで赤くなるのを自覚した。
微かに笑う顔を睨みかえし、今晩はオールだからなと宣言する。寝こみを襲われてたまるか!
ああくそ!これはアルコールのせいだからな!あああもう僕も竜崎が好きだけど竜崎は絶対ぜったい
友達!なんだからな!

友情も信頼も喜びも快感も、楽しいことも辛いことも、安らぎもなにもかもを、たったひとりの人と共有できたら
それはなんてしあわせ。
未来がとうなるかなんてわからないけれど。とりあえず僕にとっての竜崎は
恋人以上の、たいせつなひと。
こころから愛する、僕のともだち。








L&Lなかよし物語。友達以上恋人未満に萌えます。なにげにパラレルですみません。