「月くんはたぶん勘違いをしているのではないかと思うのです」
「どういう意味?」
「私に力づくで身体を開かれ、拘束され、監禁され、いまも24時間いっしょにいる。そのような極限状態で貴女の精神は、
自らを守るために自らを欺き、私に嘘の感情を抱かざるをえなかった」
「つまり。僕はストックホルム症候群に陥っていて、竜崎にたいする僕の愛情は、偽物だって言いたいの?」
「それ以外に貴女が私を愛する理由がみつかりません。愛していると私に嘘をついているか、愛しているんだとご自分に
嘘をついているか」
「ひどいな…僕は竜崎の名声とか稼ぎのいいところとか甲斐性のあるところとか、わずらわしい親戚関係とか将来面倒を
みなきゃならない身内が居なさそうなところとか、本当にこころから愛してるんだよ?」
「それ愛?愛ですか?
メチャメチャ打算的じゃないですかなんですかソレ勘違いよりよっぽどタチ悪いじゃないですかかなり傷つきましたよ私」
「えー?てゆーかもういいじゃんメンドクサイ。男はあんまり細かいこと気にしない方がカッコイイとおもうよ僕。
それよりもとりあえず竜崎。本名おしえて」
「…やはり貴女は」
「カン違いするな。婚姻届かくから」
「こんいんとどけ」
「結婚して」
「ちょちょちょちょっと待ってください!私にも仕事やら親兄弟やらいろいろ都合があるんです!すこし考えさせてくださ…!」
「うわーサイアク…結婚から逃げる男の典型的ないいわけ…そうやって何年も待たせた挙句に捨てるつもりなんだ…
泣きそう…」
「ちちちちちがいます月くんそういう脅しはやめてください泣かないでくださいいいいい!」
「子供がデキたから結婚して」
「いきなりテキトー言うのもやめて下さい。先週生理痛でさんざん私に八つ当たりしたのは誰ですか。
といいますか月くん。デスノートはどうするのですか貴女キラでしょ」
「は!こ・ん・な・モ・ノ!」

僕は。
スタスタ部屋の隅まで歩いていくと、ガコンッと燃えるゴミの蓋をあけ、手に持っていた黒いノートをそのなかに、
ポイッ。
『わーまてまてライト!ゴミに捨てるくらいならオレに返してくれー!』
「あ。まてよ。もしかして資源ゴミかな?」
『資源にならないから!人間界のモノじゃないからリサイクルできないから!トイレットペーパーとかに再利用されたら
オレ泣いちゃうから!』
ほんとうにデスノートを放棄する意思はないので、わめく死神もノートに関する記憶も失ってはいない。
こんな便利なモノ、そうそう手放してたまるものか。
キラの使命だって忘れたわけじゃなく。目指すのは清く正しくうつくしい理想の世界。
でも、目先のしあわせもとっても大事。
自分が幸福じゃない人間が、真の世界平和なんて祈ってられるとおもう?
「さ。これで問題解決だね」
「ありえません月くん…」
竜崎の傍までもどりその顔を見下ろすと、予想外の展開に明らかに混乱し、ビクついているのがわかった。
男って女から結婚を迫るとどうしてこんなに怯えるんだろう。
もともとが追う体質の捕食者は、自分が追われる立場になると弱いんだ。面白いね。
「貴女がキラを辞めるはずがない…キラが結婚ごときで裁きを辞めるとは思えない…私の幼妻がキラ…奥様はキラ………」
あーホント馬鹿。
寿退社はオンナの花道だってわかってないねえ。
椅子のうえで膝を抱えたままブツブツ呟いている竜崎にしな垂れかかると、思わずといったカンジでその両腕が背中にまわ
されたので、僕はほくそえんだ。
逃げられないよ。拒めやしないよ。
だってオマエは僕のことが大好き。
そして僕ら女性はつり橋のうえを歩く猫。
ユラユラ風に吹かれて不安定な橋のうえ、身軽にしなやかに身もココロもひるがえし、
ここぞと決めたオトコの懐へ。みごと鮮やか大胆に、飛びこんで甘えて啼いてみせる。
にゃあん。
オンナを甘くみるなよ竜崎。
愕然と茫然と、ギョロ目をさらに見開いてひきつった顔をしているキモくていとしいダーリンに
僕は必殺ナナメ45度。上目づかいにニッコリ微笑んで、宣言した。
「責任。とってね?」

抱き締められる力がギュッと強くなって。
僕は竜崎に約束のキスを可愛くねだった。



「ストックホルム症候群(Stockholm syndrome)」
<犯罪被害者が犯人に必要以上の同情や連帯感・好意などをもってしまうことを言います。
 これは誘拐や監禁などで犯人と接触する時間が長い場合に起こります。
 警察関係者や周囲に一番誤解されてしまうことが多い症状なので、考慮や配慮が重要になってきます>

女の子月ちゃん。女の子は最恐。文章だと女の子ってわかりづらい…。